遺伝子が情報を選択している説
人の行動を決定づける最大にして原初の要因。最後にご紹介するのは遺伝子の存在です。
心理よりもさらに深い領域にある遺伝子は、ポジティブな情報とネガティブな情報のどちらを選びたがるのでしょうか?
ヒントとなるのは1976年刊行の『利己的な遺伝子 著リチャード・ドーキンス』という一冊です。
キノコがあったぞ!理論
科学書は非常に難しい。『利己的な遺伝子』もその例にもれず、イヤというほど専門的です。
しかし、進化生物学と呼ばれる分野では、現代でも主流となる理論をあつかった一冊になります。私の大好きな本で、内容を話し出すとオタクの血がさわぎ早口になってしまうのですが…
関係ないので話を戻します。
ご紹介するのは「キノコがあったぞ理論」です。
キノコがあったぞ!と仲間に伝える
キノコがあったぞ理論とは、私が勝手にそう呼んでいるだけです。現にインターネットで検索してもまったく関係のないページが出てきます。
しかし、難しい本書のなかでも1番わかりやすい例なので、要約して伝えます。
注意:こちらの要約だけでは、作者であるリチャード・ドーキンス氏の意思にそぐわない場合があります。気になった方は『利己的な遺伝子』著リチャード・ドーキンス 154pをご覧ください。
あなたは小さな動物の個体です。
今、森の中でキノコが8つ生えているのを見つけました。あなたの近くには、弟のB、いとこのC、それにDという他人がいます。合わせて4人です。
キノコを1つ食べると、満足度が1ポイント上がります。また弟のBが食べた場合は0.5ポイント、いとこのCなら0.25ポイント、Dは他人なので0ポイントです。(遺伝子レベルでの得、また遺伝子は血縁間でコピーされているという考え)
もしキノコを独り占めしようとも、あなたは小さいので3つしか食べられません。また4人で分けるなら1人2つずつを4人で分けることになります。
問題:あなたは「キノコがあったぞ!」と仲間に伝えるべきでしょうか?
答え:あなたは仲間を呼ぶべきです。
理由:あなたと弟のB、いとこのCとの間には共通の遺伝子があります。1人で3つ食べた場合、満足度は3ポイント。対して4人で2つずつ分けた場合は、2+(0.5×2)+(0.25×2)+(0×2)=3.5ポイント。4人で分けたほうが独り占めする場合よりも満足度が高いので、あなたは仲間を呼ぶべきです。
つまり遺伝子レベルでは、ポジティブな情報を流すほうが得をすることになります。
参考図書はこちら▼
親兄弟にはポジティブを、他人にはネガティブを
遺伝子レベルではポジティブな選択をすることが分かりました。しかしキノコがあったぞ理論では、近親者がいる場合に限定されています。実際のところ弟のBといとこのCがいるので、満足度は独り占めした場合よりも0.5ポイント高いです。
しかし、仮に4人とも他人だった場合はどうでしょうか?
例えばあなたとB、C、Dが初対面の場合、あなたは「キノコがあったぞ!」とみんなに伝えるでしょうか?独り占めした場合は3ポイント、赤の他人と分けた場合は2ポイントです。
つまり、遺伝子レベルだと親兄弟にはポジティブな情報を、赤の他人にはネガティブな情報を渡す可能性があるということです。
「このキノコには毒があるよ」のような。
ポジティブが定着力する理由
ところで、あなたはカラオケが好きですか?嫌いですか?
私は歌がうまいほうではありませんが、カラオケは大好きです。同じような方も多いでしょう。
なんにせよ、2次会の定番がカラオケなのは全国共通と思います。それくらい私たちの娯楽に浸透しているカラオケは、サービス開始当初から特許を取得していないことで有名です。
もし、カラオケの特許を申請していたら?
カラオケが生まれたのは1970年代。初めは”8ジューク”と呼ばれました。もしもその頃に特許を取得していたらどれほど儲かったでしょう?
発明者の井上大佑氏によるとかりに特許を取得していれば、年間100億円の特許料収入が見込めたという試算もあって、この話は笑い話では済まない
とのこと。
普通、新技術を開発したなら特許を取って利益を独り占めするものです。しかし、あえて独占しなかったことからカラオケの技術は日本ならず全世界に広まることとなり、井上氏は2004年にイグノーベル平和賞を受賞することとなります。
結果としてカラオケは世界中で親しまれる娯楽となりました。(新型コロナウィルスによって下火になりましたが、落ち着いたらまた行きたいなという人も多いのでは?)
『笑う科学 イグ・ノーベル賞』著:志村 幸雄 136pより抜粋▼
ポジティブな情報=定着力
さて、カラオケは特殊な例であるものの現在でも全世界で親しまれていることを考えれば、ポジティブな情報の拡散に思えます。
最初にポジティブな情報には爆発力がないと書きました。確かに、ネガティブな情報ほど一気に燃え広がるような拡散力はありません。
しかし、長期的に考えればポジティブな情報ほど定着力のある話題もないと考えられます。
利他的な行動は、自分と他者を豊かにする可能性にあふれているのです。
あなたは、ポジティブ or ネガティブ?
私のようにブログやSNSで情報発信をしている人が1度は迷うことがあります。それは「正確に情報を伝えるか、それとも大げさに面白さ優先で伝えるか」という問題です。
なぜそんなことで迷うのか?正確な情報発信はあたり前じゃないか?一般的にはそう思われています。
しかし実際のところ、大げさに言うほうが話題になりやすいのです。
さて、ここまでをまとめると
- ネガティブな情報は目立つ
- お金が絡むとネガティブにとらえる
- 遺伝子は近親者に対してポジティブな情報を伝える
他者にはネガティブな情報を伝える
私は7月に書いた記事で何でも禁止にする論では誰も救われません。仮に「人工甘味料は肥満に効果あり!」という論なら、今まさに困っている人の助けになる
と書きました。
人工甘味料はダイエットに有効か?[医療現場でも使う7つを紹介]という記事です。
また1ページ冒頭でお話した、中田さんのパパ活疑惑は爆発的に広まりました。結果を見ると中田さんの疑いは無事に晴れ、情報の発信者である3人のナースは罰をうけることになります。詳しくは最後で。
もしあなたがブログやSNSで情報発信するなら2つの選択肢があります。
- ネガティブな情報=短期的な爆発力
- ポジティブな情報=長期的な定着力
つまり、大げさで話題性のある情報発信をするか?
または、誰かを幸せにする情報発信をするか?です。
大切なのは「正確な情報発信」です。
なぜなら人は嘘やデマを流したり、信じ込んだりするからです。それも気づかないうちに!次の6ページでは私がおすすめする「情報の見極め方」を紹介します
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